巴里レター No.3

 いまでも思い出すたびに、ちょっと笑っちゃうっていう話があります。
>  1980年代の後半、僕がまだ学生やってたころの話です。
>  そのころ僕は、外国人にフランス語を教えてくれるっていう学校で
>  勉強してたんですけど、もうちょっと正確にいうと、ソルボンヌの市民講座
>  っていうところだったんですが。最近は、そこも授業料高いみたいですけど。
>  まあ、そのころの話です。
>
>  僕は直接その場にいたわけではなくて、友だちから聞いた話なんですが、
>  あるとき、日本人の学生が何人か集まって、カフェで話をしていたんだって。
>  それで、食べ物の話になったときに、
>  日本からパリに来て、まだ1ヶ月ぐらいですっていう人が、
>  
>  「 ネコ印の缶詰って、安くておいしいよね。 」 って言ったんだって。
>  
>  他の人は、みんな
>  
>  「 ネコ印の缶詰・・・ そんなのあったかなあ。 」って思ったんだって。
>  
>  それで、よくきいてみると、じつはそれは、ネコのエサだった、
>  っていうお話です。
>
>  いいよね。 そういう話。
>  スーパーで、ネコの絵が描いてある缶詰買って来てさ、
>  自分の部屋で、キコキコ開けて、なんにも疑わずに、
>  「 おいしいなあ。 」 って、食べてる姿、
>  想像しただけで、笑っちゃいます。
>  おもえば、平和な時代でした。
>
>  ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・
>
>  ネコ印の缶詰とは、ぜんぜん関係ないんだけど、
>  今度の話は、わりと最近の話です。
>  知りあいに、Kという日本人の女性がいるんだけど、
>  彼女は僕よりパリ滞在が長いから、20年は越えてるひとですね。
>  まだ独身やってるひとですけど。
>  会話のなかにでてくる、BIOっていうのは、ビオって読むんだけど、
>  日本語にすると、有機栽培とか、そういう意味だと思います。
>  で、いきなり会話に突入するんだけど、
>
>  僕   このまえ聞いたんだけどさあ、
>      あんた、BIOのワイン、たくさん買い込んだんだって。
>
>  K   そうなのよ。でも、もう全部飲んじゃったわよ。
>      2ヶ月まえに買ったんだけどさ。
>
>  僕   ふーん。 で、何本くらい買ったの。
>
>  K   何ケースくらい買ったかなあ。覚えてないなあ。
>      全部で、4000フランぐらいだったんだけど。
>      ヴァンセンヌの森で、BIOのワインのフェアやっててさあ。
>      そのときに、買ったんだよね。
>
>  僕   へえー、そんなとこでやってたの。
>
>  K   そうなのよ。でも、BIOのワインていいのよ。
>      いっくら飲んでも、二日酔いにならないんだから。
>      1本40フランくらいするんだけど、
>      スーパーに行って、30フランのワインをまえに、
>      どれにしようかなって、悩む必要がないのよね。 
>      そういうワインてさあ、当りはずれがあるじゃない。
>      だから、それくらいだったら、40フランだして、
>      BIOのワイン飲んだほうが、よっぽどいいのよ。
>
>  僕   ちょっと、まってよ。
>      40フランのワインを、4000フラン買ったってことは、
>      100本買ったってことじゃないの。
>
>  K   まあ、それくらいかな。
>  
>  僕   ちょっと、まってよ。
>      2ヶ月って、60日しかないんだよ。
>      いったい、1日にどのくらい飲むわけ。
>
>  K   あははは、 だから、1本半くらいじゃない。
>
>  僕   ・・・ あんた、 アル中になるよ。
>
>  K   あははは、 もうなってるわよ。
>  
>  僕   ・・・ まあね。
>      でも、赤ワイン飲んでると、心臓病にならないっていうから。
>
>  ならないことはないだろうけど、確率は低くなるらしいので、
>  なぐさめるつもりで、こう言ったわけなんですが。
>
>  K   あははは、 でもさ、赤ワインじゃなくて、ぜんぶ白なのよ。
>
>  あっ、そうだ、思い出した。
>  みんなで、カフェに行って一杯やるときも、ほかの人はビールでも、
>  彼女だけ白ワインを、2杯飲んでたんだ。
>  それも、すこし高いサンセールってやつを。
>  サンセールって、日本ではあまり知られてないと思うけど、
>  なかなかおいしいワインですね。ほんのりと、マスカットの味がしたりして。
>  マスカットからつくっているのかな。 そんなことはないと思うけど。
>  値段はシャブリと同じくらい。日本円にすると、千円ちょっとかな。
>
>  今年の1月から、お金がユーロになってるけど、僕らの頭のなかは、
>  まだフランですね。ユーロで言われても、よくわからないんだよね。
>  だから、40フランのワインて、まあ、円にすると800円くらいだけど、
>  普段飲むには、なかなかいいワインですね。
>  ボジョレーヌーボーが、20フランくらいだから。
>  ちなみに、BIOのワインて、スーパーでは売ってないんです。
>
>  そのあと、酒呑みのKと意見が一致したのは、
>  ボルドーの白って、あんまりおいしくないよね、ってことでした。
>  赤は、いいんですけどね。
>  でも、ひょっとしたら、ボルドーの白でも、高いのは、おいしいのかも
>  しれないけど、そーゆーのって飲んだことないんだよね。
>
>  ワインて、ほら、値段が高いと、やっぱりおいしいんですよ。
>  それも、薄いグラスで飲むと、ぜんぜん味が違うんだよね。
>  あれは、不思議だよね。
>  クリスタルの薄いグラスってあるじゃない、
>  ベネチアングラスもそうだけど、爪で弾くと、ピーンっていうか、
>  チーンっていうか、とにかく、そういうきれいな音のするグラスです。
>  薄いけど、硬いんだよね。割れにくくてさ。
>  あれって、鉛が入ってるんだって。
>  あんなに、透明なのにねえ。
>  でも、そういうグラスで飲むと、ほんとにおいしいんだよ。
>  気分の問題じゃなくて。
>  唇の触覚の問題じゃないかなって思うんだけど、
>  誰か科学的に解明してくれないかなあ。
>  
>  僕が思うにはですね、唇の触覚の神経と、舌の味覚の神経が、
>  どっか途中で混線してて、互いに影響を及ぼしあっているんじゃないかと、
>  そう思うわけですよ。これは、大手の食品のメーカーとか、洋酒のメーカー
>  なんかが、まじめに取り組むべき問題ではないかと思うんですが。
>  まあ、ほんの思いつきの冗談ですけどね。
>
>  ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・
>
>  Kの話だけど、
>  
>  「 もっと買っときゃよかったわ。1年分ぐらい、買っときゃよかった。 」
>  
>  って言うから、そのときは、
>
>  「 ふーん、そうだね。 」
>
>  って、軽く聞き流していたんだけど、あとでよく考えたら、
>  Kの1年分のワインて、すごい量になるじゃない。2ヶ月で100本だったら、
>  1年で600本だもんね。金額にしても、なかなかたいしたもんだよ。
>  まあ、彼女だったら、それくらい飲んでも不思議はないけどね。
>  
>  これ読んだひとは、 まあ、Kさんて、本当はかわいそうな人なんだわ、
>  って思うかもしれないけれど、本人はぜんぜんそういう雰囲気ないし、
>  僕も、そうは思ってないからね。
>
>  でも、まあ、僕もそうなんだけれど、パリに長くいる他の日本人といっしょで、
>  人生しくじってるなあ、 って、ときどき思ったりするけどね。
>  
>  でも、じゃあ、そういう人は、日本にいたら、
  人生しくじらなかったかっていうと、
  それは、なんともいえないからね。
>
>  こんなふうに書くと、
>  人生って、しくじるとか、しくじらないとか、
  そういう問題じゃないと思います。
>  っていうような、まともな意見の人もいるだろうし、
>  人生なんて、しくじるためにあるんだぜ。
>  って、豪語する人もいるかもしれない。
>  ・・・ いないか。
>                                     
>                  2002年4月3日  Michio  
 
>
>  追伸
>
>  EU諸国は、もう夏時間に入りました。
>  今年の夏は、どっかに行けるかなあ、って思ったりしてます。
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>
>  じゃあ、きっとまた次回も、読んでいただけると思います。
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